演奏スタイル別

ジャッキー・マクリーンの生涯を、アルバムに沿ってなぞっていくと、だんだんとその演奏スタイルが変わっていくことがわかってきます。

一般的に云われる、

「ひしゃげたような音」

「哀愁漂う音」

「泣きのアルト」

といった要素は、ジャッキー・マクリーンの演奏には共通していますが、

時代ごとにその要素のバランスが変わります。

そのあたり、だいたい似通ったスタイルのリーダー作品をまとめてみましたので、

「この時代のマクリーンはたまらん!!」となったときに、

そのあたりの年代で、競演メンバーや、演奏曲で、アルバムを集めてみるのもいいかもしれません。

このサイトの左の検索窓で、「1956」などの年号で検索するのもいいかもしれません。

 

スタイルその①: 「ジャッキー・マクリーンはじめました。」

マイルスのお膝元で、クールにパーカーフレーズをつむいでいきます。まださわやかさがあふれていますが、早くもマンネリのにおいを本人もかいでしまっているようで、少し悩ましい雰囲気です。

スタイルその②: 「俺はジャッキー・マクリーンだ!!」

マイルス時代からの、トランペット+アルトサックスの2ホーンによる演奏スタイルは、変える気が無かったのかプロモーションの為なのか、相棒にドナルド・バードやビル・ハードマンをつけ、安定したサウンドを聞かせてくれます。このころのジャッキー・マクリーンのアルトサックスの音色は、とても哀愁漂う、センチメンタルな雰囲気を醸し出しています。元来のぶっきらぼうなニュアンスが、それをいっそう強くしています。羽目をはずすととんでもない音程が飛び出すのもこの頃の特徴です。

この時代は、「押し殺したエモーション」といったところでしょうか。

スタイルその③: 「甘ったるいのは、好きじゃないんで。。」

1960を目前に控え、横ではコルトレーンがごにょごにょしだし、周りもずいぶん騒がしくなっていく頃です。「お前は何者なんだ。」という声を、この頃のジャズ演奏者は、どこからか聞いていたんじゃないかと思います。

そしてジャッキー・マクリーンは、

「自分のできる事から、少しずつ変えていこう。」

と思ったのかなと思います。

曲想はモードを取り入れ、バップフレーズの中に少しずつコードアルペジオを増やし、しかしコルトレーンのような爆速フレーズやアウト気味なフレーズはやらず(できないとあきらめた?)、

雰囲気を一番大切にしていたように思います。

しかしその結果、ワン&オンリーの音色と、演奏スタイルが確立されているように思います。

この時代の音色はとても力強く、甘さを排したビターな音色で、とても雰囲気が出ています。

そして「あえてフレーズの間に空白を作る」ことで、独特の音空間がそこにあるように感じます。

音色的には、他のアルトサックス奏者で、この音色でこの雰囲気を出している人をいまだ聴いたことがありません。

ちょっと勉強しすぎて、コルトレーンに近づきすぎてしまったり、音で埋め尽くすことに執念を燃やす人もいたり、モードをブルースフィーリングでやってしまい、ファンキージャズになっちゃう人もいたり、どうしてもパーカーイデオムから抜け切れない人もいたりしますが、

ジャッキー・マクリーンはある意味、独自な「この時代のサウンド」を、ひとつ創り上げてしまっているように感じます。

この時代のジャッキー・マクリーンは、

「行間を空ける恐怖から逃げない、一体感のあるモード奏法」を確立していました。

スタイルその④: 「行けるとこまで、もっと向こうに。」

「フリージャズもいいんじゃね?」といったかどうかわかりませんが、この時代のジャッキー・マクリーンは、自己肯定の道に進んで云ってるんだと思います。

「音程?まあ、いろんな解釈あるし。」

「音色?ガーって鳴らせばいいんじゃね?」

「いろいろ言いたいことあると思うけど、ちょっと黙って聞いてくれないか?」

そんなことをマクリーンに言われながら演奏しているように感じてしまいます。

完成していないフラジオは、時に極度な不快感を人に与えてしまいますが、その瞬間を体感できる時代です。

その後の音色作りの為に、一回アンブシュアをリセットしたような、のどちんこぎりぎりまでマウスピースを深く咥えているような、サックスのリードの振動がマックスの音色です。

アルトサックスで、スティーブ・グロスマンのようなことがしたかったんじゃないかと思います。

この時代のジャッキー・マクリーンは、「咆哮のアルトサックス」を目指してます。

「この辺りが、分岐点。」

行ける所まで行けたのか分かりませんが、この頃のマクリーンは、確実に一皮向けています。

オーバーブロウを物にし、その音色は、アルトにしては太すぎて、テナーとはまったく違う音色になっています。

フレーズも、とても安定したものになり、案外ききやすいです。

ストロングスタイルのアルトサックスですが、アート・ペッパーやフィル・ウッズも、この頃のアルトサックス奏者はみな変化していっています。

しかしマクリーンのこのビターな音色にはなっていません。根本的に出音の特性が違うのでしょう。

「コンコンいわせて、ビシーっとバズで包み込む。」

一周回りきったこの頃のマクリーン、大好きです。

リーダー作品一覧

1955

1956

1957 (25歳)

1959

1960

1961

1962 (30歳)

1963

1964

1965

1966

1967 (35歳)

1972 (40歳)

1973

1974

1976

1978

1985 (53歳)

1986

1988 (56歳)

1991

1992 (60歳)

1996

1997 (65歳)